toujinomichiの日記

酒造りの四方山話

ピルビン酸

さて今回は、清酒業界では、火落ち菌よりも造り酒屋にとって最も天敵と言われるピルビン酸について調べてみました。

このピルビン酸濃度は、醪の前半で酵母と共に増加し、アルコール10%付近で最大となり、以降は減少すると言われています。

醪中のピルビン酸濃度は酵母の活性の善し悪しを判断するのに有効であり、上槽時期を判断するのにも役に立ちます。

例えば、比較的若い醪を日本酒度がだいぶ甘い状態でまだピルビン酸濃度が高い時期に上槽したり、若い醪をアルコール添加したりすると酵母へのストレスがかかり、アセトアルデヒドからさらに変化をとげ、ジアセチル臭をだしてしまいます。

これは酵母の増殖の過程において、たんぱく質合成に必要なアミノ酸のバリンを結合する過程で、アセト乳酸が菌体外に漏れ出し、酸化されてジアセチルに変化します。

アセト乳酸合成酵素は、酵母の増殖に比例するため、醪の留め温度が高かったり、汲み水が多かったり、低い精米歩合の場合やビタミン不足等により、ピルビン酸が増殖するとアセト乳酸合成酵素がより活性化されて、酸化分解されるジアセチルが増大します。

このピルビン酸濃度、低いにこしたことはありませんが、計測するのが昔は大変高価でしたが、ある大手のG酒造が開発したピルビン酸を計測できるキットで慣れない人でも簡単に色の識別だけで計測できるのです。

しかしながら最近まで販売されていたのですが、今年になりとうとう終売となりまして、今後は簡単にピルビン酸濃度を計測できなくなりました。残念です。

こうした理由から、これからはピルビン酸を出来るだけ生成せずに、抑制するような醪経過をとる必要があります。

例えば、汲み水歩合を少なくして、濃糖状態とし、酵母の増殖をやや抑え気味にしたり、留め温度を低くし、できるだけ温度の上昇を抑えるなど工夫が必要でしょう。

しかし最近の研究では、米麹を生成する過程でできる物質チアミン(ビタミンB¹)を

総米1000Kgあたり、チアミンをたった1g添加するだけで、醪中のピルビン酸を低減させる効果があるという研究結果が報告されています。

このチアミンですが、できるだけ早い時期(添え仕込み)に添加するのが、効果があります。

米麹によるビタミン類の生成について、不明な点も多いが、麹菌の増殖や、製麹時間を長くするなど工夫で増加するとも言われてます。その他、出麹後でも10℃~20℃の温度帯の時間を長くとれると多く生産されると聞きました。

清酒製造において、厄介な物質ピルビン酸ですが、色々試した所米の種類や酵母の種類によって違いがあることが、判明してきました。

例えば、山田錦酵母M310 を使用すると、大吟醸のような造り方をすると、ほとんどピルビン酸が残存していないのです。逆に硬いお米の五百万石でカプロン酸エチル生成の高い酵母を使用すると、醪後半までピルビン酸が残存してるのです。

この結果は全般的に、硬い米質のお米で香りの高い酵母を使用すると見られました。

ちなみに、個人的意見ですが、ピルビン酸生成の少ない酵母は、M310、K1601の二つが極端に少ない気がしました。

出来るだけアセトアルデヒド臭やジアセチル臭を出さないことはもちろんですが、もしもかりに上槽後このオフフレーバーになったとしたら、上槽した生酒に醪の滓をからませて一週間程度すると、酵母の自己消化で消滅しますので,慌てずに対処しましょう。

もしもピルビン酸濃度が高いのに上槽しなくてはならないなら、少量だけ濾過をして

その濾液を60℃前後に加熱すると、つわり香になるかどうか判別することができますので試してみてください。