toujinomichiの日記

酒造りの四方山話

火入と割水(加水)

最近の火入れ方法では、一度瓶詰めしてから一本ずつ火入れする瓶燗方式にしてる蔵元が多くなってきてると聞いてますが、これは一番品質が安定すると言われてるからです。ですがまだまだ主流派は、蛇管による火入れが多いと思われますので、こちらの説明をしていきます。

火入れの目的は、清酒を加熱することにより、生酒の殺菌を行うとともに、残存しているアミラーゼやプロテアーゼ等の酵素を失活させます。また火入れ後タンク貯蔵することにより、新酒独特の荒々しさや新酒バナ(麹バナ)がなくなり、貯蔵中の温度管理により熟度を調節できます。

生酒のまま長期間保存すると生老香(イソバレルアルデヒド)が付く可能性が高くなりますので速やかな火入れをしたいものですね。通常、火入れは60℃で2~3分程度の加熱で死滅すると言われています。火入れが終了したら速やかに冷却しましょう。冷却することで熟度を若く保つことができます。

その他、同じ条件で火入れしても、酒によって熟成の進み具合が違うものです。糖分、鉄分、アミノ酸の多い酒は熟しやすく、粕歩合の少ない酒、精米歩合の高い白米や甘口の酒質、ボーメの切れが悪く老ねた麹を使用した醪などは、熟しやすい酒質となりますので、特に過熟に注意し、火入れ後の冷却が必要となります。

火入れをすると酒は温度が上昇することにより膨張します。例えば清酒1000Lが15℃で火入れ温度が65℃なら温度差65-15=50℃の温度差となり、1000L÷0.9761=1024Lとなり24Lの清酒が一時的に増加します。温度が下がればまたもとに戻ります。

このように温度差により生酒の換算率が違いますので覚えておいてください。

次に割水の計算式について説明します。アルコール度数20%の清酒1000Lを15%に割水したい場合は、1000L×20÷15=1333Lとなり、水が333Lを加えるわけですから単純に量は増加して利益率は上がるでしょう。現在ではあまりこういう考えではありませんが、昔はこういうのが主流だったことは確かですね。

ついでにタンクの容量計算も説明します。例えばタンクの深さが848mmとします。空尺が300mmで1mm当たり0.56156mm、底板面積25Lの場合では、

848mm-300mm=548mm 548mm×0.56156mm+25L=332Lの清酒がタンクの中に存在することになります。

その逆にこの計算式を逆算すると容量からタンクの空尺が分かるようになります。例えば、332L-25L=307L÷0.56156mm=546、69ー848mm=301mmとなり最初の空尺に近くなりました。これが分かれば割水も面白くなること間違いなしです。

次に万が一割水をし過ぎてしまった場合は大変ですよ、アルコールを下げる場合なら水を足せばいいだけですが、アルコール度数を上げるとなるとかなり厄介な作業になります。例えばアルコール14%の清酒5000Lをアルコール15%の清酒にする場合で計算してみます。

間違った度数×AのL数+Aの原酒の度数×y=目的度数×(AのL数+y)

14%×5000L+20%×y=15%×(5000L+y)

     70000+20y=75000+15y

      20yー15y=75000-70000

          5y=5000

          y=1000Lとなり20%の原酒が余計に1000L必要になりますので割水は正確にやることが望ましいでしょう。